<質問 1>
土・空・海の放射線、食物についてどのくらいの時間が影響しているのか。今後も福島の影響はいつまで続くのかもう少し具体的に知りたいです。 (北大会場)
<回答>
事故によって環境中に放出されたCsの分布と今後の移行については、具体的な内容を中級コースでカバーする予定です。 (事務局)
<質問 2>
Csの体内での分布に関する知見の出典を教えて欲しい (福島大会場)
<質問 3>
ホルミシス効果について今後のアプローチの方法はあるのか (北大会場)
<回答>
人体におけるホルミシス効果を評価するためには生活習慣、人種、環境因子などの影響を超えて微量な低線量放射線影響を評価しなければならないことから、膨大な調査対象が必要となるため、正確な評価はなかなか難しいのが現実です。一方で、動物実験では他の影響因子の背景を統一することが可能なので効果が検出できる場合があり、そのような報告もなされています。 (稲波先生)
<質問 4>
預託線量、預託等価線量が分かりにくい。 (北大会場)
<質問 5>
1.バンダジェフスキー著「放射性セシウムが人体に与える医学的生物学影響」の中にある「1kgあたり20Bqという体内セシウム濃度で心臓に異変が起こる」という説については、どうお考えでしょうか?
2.「原発ぶらぶら病」という説がありますが、これについてはどうお考えでしょう。
3.瓦礫の8000Bq/kgというのは、どういうことが元にこういう値が出てきたのでしょうか?また、100Bq/kgというのは、どういうことが元になっていますか?人体に何シーベルトとかいう基準を元にしているのでしょうか?設定の仕方を教えてほしい。 (北大会場)
<回答>
1.ご指摘の本を含めBandazhevsky氏の書いた関連の論文をいくつか読みましたが、以下の理由から、信頼するに足るものではないと思われます。
(1) データの一貫性がなく、信頼性が低いこと
(2) 他の研究から考えて、Cs-137が心筋に集積するとは考えられないこと
(3) 放射線被ばくという観点から考えるとCs-137のみを特別にK-40などの他の放射線源とは切り離して考える理由はなく、その場合20Bq/kgというのは特別に高い被ばく線量にはならないこと
(4) Cs自体は心臓に異常を起こすことはあるが、20Bq/kgのCs-137では濃度が低すぎること
2.そのようなお話は耳にしたことがありますが、一般的に受け入れられていることではないと理解しております。
3.詳しくは環境省のHP:http://kouikishori.env.go.jp/material/を参照していただきたいのですが、8000Bq/kgの基準は廃棄作業員が廃棄処理に一日8時間、年250日労働しても1mSv/年以下になるように設定された値です。これは50cmの厚さで埋め立て処理をした際に、居住している一般の市民の被ばく線量が1mSv/年以下に抑えられる値でもあります。また、放射能汚染廃棄物には100Bq/kgというクリアランスレベルがもう一つ設定されているが、これはコンクリートや金属の廃棄物を再利用する場合の基準になります。 (稲波先生)
<質問 6>
子供たちがもし被ばくしてしまった場合、具体的にどのような影響があるかを知りたいです。(外部被ばくなどで、喉などに影響があるとかテレビでは言っているもので・・・) (北大会場)
<回答>
被ばくによる影響は大人と子供で大きくは変わりません。はっきり異なる影響が見られるのは、子供では甲状腺がんのリスクが増大するということです。質問者さん言われている「喉」というのは、おそらくこのことかと思います。しかしながら、この場合「外部被ばく」ではなく「放射性ヨウ素」の摂取による内部被ばくが原因であるとされています。 (稲波先生、山盛先生)
<質問 7>
・ 細胞が「生きている」「死ぬ」とは具体的にどのような状態、現象なのか。
・ 細胞周期の1サイクルは実際どのくらいの時間なのか。
・ 細胞分裂頻度と細胞周期に関係性があるのか。 (北大会場)
<回答>
・ 細胞の生死は、基本的には「増殖(分裂)する能力があるかどうか」により判断されます。増殖能を失った細胞が死んだ細胞です。また、死んだ細胞は、通常の細胞と比べて形態的にも変化しますので、それを観察することで細胞の生死を判断できます。
・ 細胞周期の1サイクルは細胞の種類により異なります。細胞周期が30分程度のものから1年程度のものまでさまざまです。
・ 細胞分裂の頻度が高い細胞は、細胞周期の1サイクルにかかる時間が短い細胞ということになります。そのような細胞ではG1期を通過するのに必要な時間が短いことが多いです。 (稲波先生、山盛先生)
<質問 8>
中級にて?計測器にてcpm→Sv、Gy、Bqの動作原理などより詳しく知りたい (北大会場)
<回答>
初級では放射線測定の原理を中心に講義いたしました。より詳しい内容については、中級コースにて講義する予定です。 (小崎先生)
<質問 9>
市販の数千円〜数万円の放射線測定器はどう使ったらよいのかについての考え方を初級コースに入れて欲しい。 (北大会場)
<回答>
現在、様々な種類の(価格の異なる)放射線測定器が市販されているため、それらを1つにまとめて評価することは難しい状況です。ただ、一般論ですが、廉価な測定器は検出感度が低く、温度などの周りの環境の影響を受けやすいなど不安定であり、測定値の信頼性も高くありません。 (小崎先生)
<質問 10>
放射線計測について
・ GM式では核種を特定することができないとのことですが、数値としてはmSvで結果が出ています。線量(Sv)は、核種(エネルギー?)が分からないと正確な数字が出ないのではないかと思うのですが、なぜGM計数管で線量(Sv)が求められるのですか。
・ 同じGM計数管でも、線量率が測定できないものがあるのはなぜですか。 (北大会場)
<回答>
ご指摘の通り、GM式の検出器ではガンマ線のエネルギー(放射性核種の種類)を特定することができません。線量率(μSv/h)の目盛りのあるGM式の測定器(サーベイメーター)の場合、測定対象の放射性核種が1つ(多くの場合Cs-137)であると仮定してあります。このため、それ以外の放射性核種からの放射線では、測定した線量率が不正確な値となる可能性があります。 (小崎先生)
<質問 11>
核燃料サイクルで、ウランを再利用する場合、出てくる廃棄物の危険性は今までの高レベル放射性廃棄物と変わらないのでしょうか。 (北大会場)
<回答>
ウランの原子核が2つに分裂して生じた原子核の「かけら」(核分裂生成物)が高レベル放射性廃棄物の正体です。この「かけら」の数は、核分裂したウラン原子の数の2倍に相当します。つまり半減期で減衰していく量を考えなければ、発電量で決まります。例えば、半減期の長いCs-137の量は再処理(ウランの再利用)の有無にかかわらず同じです。ただし、再処理を行うと、回収したウランとプルトニウムの分だけ、高レベル放射性廃棄物の量を減らすことができますし、ガラス固化することで使用済燃料の状態よりも安定な状態にすることができます。 (小崎先生)
<質問 12>
Csの拡散状況に興味があったため汚染の状況の講義がなかったのが残念だった。放射性セシウムは土壌中の年度中に取り込まれているとの話だったが、高濃度アンモニウムイオン水溶液中でもセシウムが溶出しなかったと聞いたことがあります。Csはどのような形で粘土鉱物に取り込まれているんですか。地層処分の放射性核種としてAmの移行が研究されているが、Amは原子力発電のどの過程でできるのですか。 (北大会場)
<回答>
Csの環境中の拡散状況については、粘土鉱物へのCsの取込みも含めて、中級コース以降で講義を予定しております。そちらをご聴講頂ければ幸いです。
なお、Am(アメリシウム)は、原子炉運転中に燃料中で生じたPu(プルトニウム)同位体が、運転中あるいはその後にβ壊変をすることで生じます。例えば、Pu-241は、13.6年の半減期でAm-241に変わります。 (小崎先生)
<質問 13>
電源喪失状態では、他のタイプの原子力発電(PWR)でもベントができないのか (福島大会場)
<回答>
BWR(沸騰水型原子炉)とPWR(加圧水型原子炉)では格納容器の形状は大きく異なり、BWRにはベント設備がありますが、現在のPWRには設置されていません。これは、PWRの格納容器がBWRに比べてはるかに大きいことや、電源が失われても格納容器内に蒸気を放出することなく原子炉を冷やすことが可能な特徴を持つことなどから、事故が起こっても圧力上昇で格納容器が破損する確率が非常に低いことによります。
なお、福島の事故を受けて各電力会社では、多様な電源設備の配備や、主導でバルブを開けることができるようにする、などの対策を実施しており、BWRの格納容器のベントの信頼性は大きく向上しています。また、BWR、PWRとも、今後は放射性物質を除去するためのフィルターの付いたベント設備を新たに設置する計画です。 (坂下先生)
<質問 14>
放射線生物学で、ヒト以外の「魚」「鳥」「植物」「微生物」への個別影響と相互の影響、食物連鎖の中での濃縮度等ヒロシマ、ナガサキではなく今回のフクシマの事例で知りたいです。水源が汚染された場合、どのような管理のもとで除染を続けていくのか、どのように汚染の拡大に合わせて除染データやシステムのスケールも上げていくのか?そのあたりのアプローチも知りたい (北大会場)
<回答>
ご指摘の内容については、今後中級・上級コースの講義・実験でカバーする予定です。 (事務局)
<質問 15>
水素原子が中性子を減速させやすい理由は何ですか。 (北大会場)
<回答>
中性子は電荷を持たない粒子なので、正の電荷を持つ原子核との静電的な相互作用を利用した減速ができません。このため、基本は他の原子核に衝突させて減速させることとなります。衝突前後でエネルギーが保存される場合(弾性衝突の場合)、最も効率よくエネルギーを相手に与えることができるのは、相手が同じ質量を持つ場合、すなわち中性子の場合は同じ重さを持つ水素の原子核との衝突となります。これが、「水素原子が中性子を減速させやすい理由」となります。
この現象は、中性子をビリヤードの球で例えると、ビリヤード球をボーリングの球(重い原子核)にぶつけた場合、ビリヤード球は跳ね返ってくるだけで、その運動速度はあまり低下しないのに対して、ビリヤード球同士をぶつけた場合はぶつけた球が制止することもあるなど、運動速度が大きく低下することからも、イメージできるかと思います。 (小崎先生)
<質問 16>
なぜ、鉛がガンマ線を良く遮へいするのでしょうか。 (福島大会場)
<回答>
ガンマ線と物質の相互作用の内容は、ガンマ線のエネルギーや物質の種類によって異なります。ガンマ線のエネルギーが低い領域ではほとんどすべてが物質に吸収されてしまいます。この場合、ガンマ線が吸収される確率は物質を構成する原子の原子番号(陽子の数)のほぼ4乗に比例します。ということは、鉛のように大きい原子(陽子の数82)は、ガンマ線を効果的に
"遮蔽" できることになります。放射線と物質の相互作用については、本中級講義でお話しする予定です。 (藤吉先生、小崎先生)
<質問 17>
放射性核種が違うとどのように放射能の強さに影響するのでしょうか。 (北大会場)
<回答>
放射能はもともと1秒間に壊変する放射性核種の数です。ですから、放射性核種の種類が変わっても壊変する数が同じなら同じ放射能になります。 (藤吉先生)
<質問 18>
半減期と放射線量にどのような関係があるのですか。
半減期が短い→放射線はゆっくり長い時間をかけて出る?→単位時間当たりの放射線量は少ない? (北大会場)
<回答>
放射性核種の半減期の違いは、放射能の時間変化に現れます。すなわち、半減期が短いと放射能は速く減衰します。
一方、点状の放射性物質からの単位時間当たりの放射線量は、ある時刻の放射能に線量換算係数 [核種の特性に依存して得られる係数] を掛け合わせ、さらに放射性物質と測定地点との距離の二乗で割ることにより求めることができます。
半減期が長いということは、ある原子核が壊変して放射線を出してから、次の別の原子核が壊変して放射線を出すまでの時間が長いことになります。このとき放射線を出すのは一瞬です。「ゆっくり長い時間をかけて出る」ことはありません。
これに対して、単位時間当たりの放射線量は上述の通り、放射能と線量換算係数、距離によって変わりますので、一概に半減期が長いから放射線量が低いとは言えません。 (藤吉先生)
<感想>
山盛先生の講義がとても丁寧で良く理解できました。。 (北大より)
<回答>
そのように言っていただけると励みになります。私の講義が少しでもお役に立ったのであれば幸いです。どうもありがとうございます。 (山盛先生)