国際原子力人材育成イニシアティブ事業(原子力人材育成等推進事業)

「多様な環境放射能問題に対応可能な国際的人材の機関連携による育成」

質問に対する回答(平成23年度 講義分)


<初級コース>
<質問 1>
 病院で使用している核種は、製造・販売している会社があって、そこから買っているのでしょうか。
<回答>
 PETで使用する短寿命の放射性同位元素は、病院内で加速器を用いて製造されます。それ以外の法令で規制を受ける量の放射性同位元素は、社団法人日本アイソトープ協会を通じて購入します。詳細については、協会のホームページに掲載の「製品関連情報」をご覧ください。 [住吉孝(北大)]
 <社団法人日本アイソトープ協会)>

<質問 2>
 工業関係の測定器に使用する核種は自社で製造する場合も、買って使用する場合もあるのでしょうか。
<回答>
 質問 1の回答をご覧ください。 [住吉孝(北大)]

<質問 3>
 製造・販売している会社は、具体的にどのような会社(社名)でしょうか。
<回答>
 質問 1の回答をご覧ください。 [住吉孝(北大)]

<質問 4>
 単鎖切断が起こるか二本鎖切断が起こるかというのは、何によって影響されるのか。放射線の強度や種類というのは関係あるのか。
<回答>
 全ての種類の放射線が、単鎖および二本鎖切断を引き起こすことができる訳ですが、この割合というのは特に放射線の種類の違いによって影響されます。例えば、X線やベータ線よりもアルファ線や中性子線のほうが二本鎖切断を引き起こしやすい。 [山盛徹(北大)]

<質問 5>
 PWR一次系の全体図の中で、加圧器の数量は出力によって増減するとなっていますが、燃料棒も出力、加圧器の数量、出力の増減によって増減しますか。
<回答>
 原子炉の出力によって変わるのは、加圧器ではなく蒸気発生器の数です。加圧器の数は出力に関わらず1台です。蒸気発生器は、1台で25万 kW〜29.5万 kWの電力に相当する蒸気を作り出すことができ、この台数が原子炉の出力に応じて変わります。また、燃料棒の本数も原子炉の出力に応じて変わります。例として、下表に、北海道電力泊発電所1〜3号機と、関西電力大飯3・4号機における、電気出力、蒸気発生器数、1集合体当りの燃料棒数、炉心内の集合体総数を示します。 [坂下弘人(北大)]
北海道電力
泊1・2号機
北海道電力
泊3号機
関西電力
大飯3・4号機
電気出力 57.9万 kW 91.2万 kW 118.0万 kW
蒸気発生器数 2台 3台 4台
集合体の燃料棒配列 14本×14本 17本×17本 17本×17本
集合体当りの燃料棒数 179本 264本 264本
炉心内の集合体数 121体 157体 193体


<中級コース・講義>

<質問 1>
 ダストサンプラによる集塵では、流量等について測定条件の統一はされているのでしょうか。
<回答>
 大気中放射性物質のモニタリングは、通常、原子力施設周辺における大気浮遊塵(または放射性ヨウ素)の捕集・検出および測定を目的として実施されています。モニタリングは、平常時および緊急時についてそれぞれ異なった手法が提唱されています(環境放射線モニタリング指針、原子力安全委員会、2008)。
 平常時の浮遊塵捕集に関して、ダストサンプラを用いる方法では、補修用ろ紙(セルロース・ガラス繊維等)を装着したサンプラを100〜250 l/min の流量に調整して任意の時間捕集するとされています。ろ紙試料は1ヶ月間集めたのち、ガンマ線放出核種についてはゲルマニウム半導体検出装置を用いて特定核種について放射能の精密測定を行うことになっています。一方で、放射性ヨウ素の測定を対象とした場合は、ダストサンプラの流量として50 l/min に設定する場合が大部分です。
 緊急時における浮遊塵捕集は、ダスト放射能濃度等の継時変化に関する情報が重要であるため、平常時に比較してろ紙等の交換期間を短縮して、放射能測定の頻度を上げることが要求されます。また、状況に応じて可搬型サンプラを用いて移動しながら測定する場合もあります。捕集流量は、平常時に比較して高い値(例えば、500 l/min 以上)に設定し、より短時間で放出核種の情報が得られるようにしています。
 このように、ダストサンプラの流量に関しては大体の目安が示されていますが、具体的な数値は状況により異なります。したがって、最終結果を公表する場合には、測定条件を詳細に記載することが必要になります。
 緊急時におけるモニタリングの手順に関しては、"Genetic Procedures for Monitoring in a Nuclear or Radiological Emergency", IAEA-TECDOC-1092 (1996) に記載されいます。なお、このドキュメントは、放射線医学総合研究所緊急被ばく医療研究センター線量評価研究部の編集により "原子力あるいは放射線緊急事態におけるモニタリングの一般的手順" というタイトルで翻訳され、2005年に放射線医学総合研究所のレポートとして公表されています。 [藤吉亮子(北大)]

<質問 2>
 データの保存期間はどの位で、様式はどの様なのか。
<回答>
 データの種類にもよりますが、例えば、放射線障害防止法で定められている放射線取扱施設における場のモニタリング(作業環境および放射線施設周辺)で得られたデータは、5年間保存することが義務付けられています。ちなみに、福島原子力発電所事故を受けて、北海道大学工学部で2011年3月以来継続している放射能モニタリングに関しては、法律による規制とは無関係ですので、データ(および試料)の保存については何の制約もありません。 [藤吉亮子(北大)]

<質問 3>
 時定数の時間90秒位とありましたが、どの計測器も同じですか。
<回答>
 サーベイメータは計数効率(ある時間内の計数値を測定する装置)であるため、時定数(最終指示値の63%を示す時間)が存在します。時定数が長くなるとメータの指示値は安定しますが、変化に対する応答性が悪くなります。したがって、線量測定には時定数を考慮する必要があります。時定数(τ)と最終指示値(A)の間には以下の関係がありますので、測定時間(t)を時定数の3倍取れば最終指示値の95%、4倍で98%の値(X)を得ることができます。
   
 サーベイメータ毎に時定数の切り替えスイッチがついています。測定環境よって時定数を変化させる必要があります。 [藤吉亮子(北大)]

<質問 4>
 増幅器で電圧が増幅する理由が理解できなかった。
<回答>
 回答待ち [古坂道弘(北大)]

<質問 5>
 放射線測定器とその測定原理の検出下限について、もっと詳しい説明がほしい。
<回答>
 放射線には、ガンマ(X)線のような高エネルギーの電磁波、アルファ線やベータ線のような荷電粒子あるいは中性子のような非荷電粒子など特性の異なるいくつかの種類が含まれます。直接目で見ることのできない放射線は、いろいろな物質(検出器)との相互作用(電離や励起など)を利用してその量や強さを測定します。放射線の種類やエネルギーによって異なるタイプの検出器が使われます。放射性核種の壊変はもともと確率的な現象であるため、壊変によって放出される放射能の測定値は本来不確定さを含みます。また、地球上にいる限り環境放射性核種(ウランおよびトリウム系列核種、放射性カリウム)はどこにでも存在し、宇宙線をはじめ自然放射線が常に降り注いでいわゆるバックグラウンド放射線の原因になっています。
 このような状況で得られた放射線(能)の測定値、特に低レベルの値を正しく評価するためには、放射線測定装置の測定条件に応じた“検出限界”を知っておく必要があります。検出限界に関しては、これまで多くの見解があり専門分野によって必ずしも統一されていたとは言えません。例えば、日本工業規格(JIS Z 4001 原子力用語)によると、相対および偶然不確かさが95%の確率レベルで±100%に等しくなる測定値の指示値と定義されています。放射線計測における検出限界計数率は、以下の式から求めることができます。

 ここで、K=3, Ts=Tb、かつn0が特に小さい値でない場合に限り、バックグラウンド計数の標準偏差(σ0)を用いて、以下のように近似することができます。 [藤吉亮子(北大)]

参考)
 ・ 放射線測定装置と測定法の概要 : 平井昭司 著
 ・ 放射能および放射線をどのように測定するか?(日本分析センター
 ・ 検出限界に関する提言 : Hurtgen et al, Appl. Radiat. Isot., 53, 45-50 (2000).

<質問 6>
 測定器について「エネルギー補償あり」の意味について。
<回答>
 ほとんどすべての放射線検出器は、放射線のエネルギーに依存した応答特性を持ちます。下図は、ガンマ線測定用サーベイメータの線量率指示値がエネルギーに依存する様子を示しています。縦軸のスケールは、指示値と真の照射線量率との比で、セシウム‐137(Eγ= 662 keV)に対する値を1としてあります。例えば、環境放射能の測定に通常用いられるNaI(Tl)シンチレーションサーベイメータは、ガンマ線のエネルギーによりレスポンスが大きく異なることが分かります。したがって、検出器特有の応答を知った上でこれを補正することが必要になります。色々な種類・異なるエネルギーの放射線が放出されている環境で正確な線量データを得るためには、検出器のエネルギーレスポンスを校正した(エネルギー補償有)の測定器を用いなければなりません。 [藤吉亮子(北大)]